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白壁の懐かしいな街並が残る旧真壁町の中心街は、茨城県の真ん中を横断する国道50号から筑波山へ向かう途中、主道からちょっとそれたところに身を隠すように現れます。
「こんな夢を見た。」で始まる夏目漱石原作の映画『ユメ十夜』のロケ地としても使われていますが、まさに夢の中にふっと浮かんできそうな街、それがこの街に最初に訪れたときの印象でした。
真壁町の歴史は古く、常陸国風土記に『白壁』として登場し、鎌倉時代の真壁城の築城以降、関ヶ原の合戦で佐竹氏とともに出羽国(秋田)に移封されるまでの430年にわたり領土は守られ、戦国期にはすでに現在の町割の基礎が完成していたともいわれています。江戸時代に入り現在とほぼ同じ街並が完成、中期には商業の中枢として栄え、なかには江戸や大阪の商人と肩を並べるほどの豪商もあったといいます。メインの御陣屋前通りの角地にどっしりと構える「潮田家」は『関東の三越』と呼ばれ、美しい入母屋造りの建物は県内第一号の文化財として登録されています。真壁町屈指の旧家・谷口家や、土蔵造りの川島書店など、江戸時代から続く数件の貴重な商屋をはじめ、明治期以降の蔵や邸宅など260を超える伝統的な建物がそちこちと点在します。そのうち国の文化財に登録されているものは104棟を数え、町村規模では日本一を誇るのだそうです。
1km四方ほどの小さな市街地は街全体が木漏れ日の中にあるようで、ご近所同士の話し声が遠くの方からかすかに耳に届きます。手入れの行き届いた軒先には花々が並び、行き交う住民が「いらっしゃいませ」と気持ちよいあいさつをなげかけてくれます。ところどころに休憩所が設けられ、お茶をすすりながら街の歴史を懇々と語るのを聞いていると、田舎のおじいさんの家に遊びにきているような心持ちがして、「ここを離れるのが惜しい」そんな気分にさせられます。
この街にはおもてなしの心が根付いています。どんな著名な観光地でも迎え入れる側の気持ちが感じられないと味気ない旅になってしまいます。背伸びせず、訪れた人を迎え入れてくれる小さな街には気負いもなく、はじめて訪れる旅人にとって一言の会話がとても優しく感じられるのです。
中心街から東へ青々とした田園風景の中を注意深く走ると、小さな水路をともなった集落に出会います。この近くにはかつて真壁城がありました。筑波山を仰ぐ茨城県内屈指の規模を持つ大城郭です。現在でも遺構が良く残され、いつくかの土塁が復元されています。一部は町立体育館などに様変わりしてしまいましたが、一帯は継続的な発掘調査を経て史跡公園として整備されています。近くには浅野長政公の菩薩寺、伝正寺があります。文永5(1268)年に開山したという歴史あるお寺は、生い茂る草木に囲まれた山門や石段を従え、緩やかな時間の旅へと誘っているかのよう。(KK)
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