ご利用規約プライバシーポリシー運営会社お問い合わせサイトマップRSS

[福島] 記事数:3

| 前の記事 >


◎福島

白河(水郡線の旅)
[福島県白河市]

このエントリーをはてなブックマークに追加

 福島県の白河市は、東北地方南部、栃木県との県境に位置し、古くは奥州の玄関口『白河の関』として、『おくのほそ道』をはじめ多くの歌に詠まれる歴史ロマンに富んだ街です。1801年に松平定信によって造園された日本最古の公園『南湖公園』も有名で、四季折々に美しい自然を讃える景勝地となっていますが、今回は白河市内の観光ではなく、水戸から白河までのゆたりな旅路を紹介します。

(動画はありません)

◎「ゆたり旅」居心地のよい場所
水郡線と白棚線

 水郡線とは茨城県水戸市から福島県郡山市を結ぶ総延長147km(途中、常陸太田方面への分岐路線も含む)のJR東日本の鉄道路線。全部で45ある駅は大きめの駅でない限り、ドアは乗客がボタンを押して開けなければならない。ワンマン運転の際は整理券などを利用するようだ。水戸駅から磐城棚倉駅まで乗り換えなしで行ける電車は、1日7本。
 電車のドアの脇についている開閉ボタンを押し、いよいよ電車は動き出す。水戸駅を出ると、電車は水戸城の面影が名残惜しい本城橋の下をくぐり那珂川を渡る。グイグイと引っ張られるような乗り心地が新鮮で面白い。次第に民家が減り雑木林や畑が多くなる。やがて山方宿駅付近から久慈川の雄大な流れと長閑な里山の風景が視界に広がってくる。前日の雨で水分を十分に蓄えた木々は青々と重い。簡素な駅舎のすぐ脇には山ツツジが鮮やかな紅色に染まり、帰郷する人々を迎えていた。路線は久慈川と伴走するように、何度も川と交わり、常陸大子駅に到着する。ここで、どっと乗客が減り、4両あった車両も2両にダイエット。軽くなったグンセン(地元の人は水郡線をこう呼ぶのだとか)は、福島県へと突入していく。矢祭山へハイキングに行くであろう年輩のご夫婦や、里帰りする若者、部活帰りの学生らを下ろし、電車はついに目的の磐城棚倉駅に。


 棚倉駅から白河駅まではバスが1時間に1,2本出ているので案外便利だ。770円と料金も安い。そして何より醍醐味は、1944年に姿を消した白棚鉄道の路線敷を走るバス専用道路だ。東北本線のある白河と棚倉を結ぶ白棚鉄道は、1916年に建設され、太平洋戦争の激化によって休止。戦後も鉄道としての復活はされず、レールや踏切などが撤去された路線敷を、バス路線として活用するようになったという。バスは、出発からまもなく国道289号から折れ、一部の区間バス専用道路を利用する。専用道路だけに、バス一台がやっと通れる程の幅員で対向車もない。信号もなく、一般道路との交差点もほとんどがバス優先となっているので、停留所以外で止まることもほとんどない。直線も多いことから、一般道を走るよりはるかにスムーズで、景色もすばらしい。盛り上がった路線敷の上を走る車窓から、涼しげな水田や民家の庭先を眺めながら、ちょっと風変わりなバスの旅を堪能できる。奥州の玄関口白河駅へついたのは陽も傾きはじめた頃。白河駅は、東北の駅百選に選ばれていて、赤瓦を頭にのせた大正ロマン漂う真っ白な駅舎に、斜陽が差し込むステンドグラスがはめ込まれている。改札越しには中庭を見やり、今も昔も東北の玄関口としての役割を担う、風格ある佇まいが印象的だ。

 こうして地方路線を利用してみると、時代背景や社会の変遷をひしと感じることができる。車社会の現在、排出ガスによる環境破壊が問題視される一方、道路整備は際限なく進み、数十キロもの渋滞を生んでもなお、私たちは車を利用する。その裏で、撤廃の危機に直面している鉄道やバス路線は少なくないはずだ。水郡線もまた例外ではなく、沿線のまちからは東京方面へ高速バスも運行され、徐々に乗客が流れつつあるという。高速バスは、水郡線に比べ本数が多く、運賃も安い。大子から東京までの所要時間も、特急を利用したときとほとんど変わらない。しかし、水郡線は数十年の時を積み重ねたくさんの人々の記憶を運んできた。地方にある豊かな自然や慣習と同じように、水郡線もまた故郷の憧憬として人々のこころに内にあるものだ。便利さだけを求めるのでもなく、懐かしさにすがるのでもない、暮らしや環境のあり方、人々の心情としっかりと向き合った冷静で健康的な意思が、わたしたち一人ひとりに必要なのだと感じる。残し伝えられてきたものも、新しく創造されるものも、すべて私たちの選択してきた道の延長なのだから。(KK)

ページの先頭に戻る▲

[福島] 記事数:3

| 前の記事 >

新着情報

» ゆたり旅
» カテゴリ



「ゆたり」は時の広告社の登録商標です。
(登録第5290824号)