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[ゆたりストに学ぼう] 記事数:52

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小さな一歩が
未来を切り開く大きな足跡に

山のようちえん
[栃木県鹿沼市]

Yutarist
山崎 恵さん

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 栃木県鹿沼市粟野。山々に囲まれた緑多いこの地区に「山のようちえん」があります。そこでは、栗野の自然が子どもたちの先生。今日もパンパンに詰まったリュックを背負い、子どもたちが元気いっぱいにようちえんにやってきました。


 「この山とこの家、そしてこの暮らしがなかったら、ようちえんをはじめていなかったかもしれません。今までの自分の経験と目の前にある環境が合致したからこそ、『山のようちえん』に行き着いた感じはありましたね」
 そう話すのは「山のようちえん」代表の山崎恵さんです。英語のスキルをいかし、「ラボパーティ」という英語を主体とした言葉と心を育む活動をしつつ、栗野の山の麓に佇む古民家で暮らし始めて10年。荒れ放題だった野山を自らの手で開墾を重ねながら、これからの生き方を思い描いたとき、山崎さんの脳裏に「自然教育」というキーワードが浮かんできます。子どもたちとのふれあいのなか、限りない可能性を感じたという山崎さん。未来への種まきは子どものうちに、そして自然豊かなこの粟野での暮らしを何かに活用できたらという思いが結びつき「山のようちえん」が誕生。2017年4月に開園したばかりの、できたてほやほやの小さなようちえんです。


 「山のようちえん」にあるのは、ありのままの自然のみ。季節ごとに表情を変える山々と、植物と沢。このようちえんには「教室」も「体育館」もありません。ヤギの世話や畑作業、時には火をおこしてスープを作ったり、散策しながら木の実を収穫したりと、まさに自然ありきのカリキュラムとなっています。
 慣れた足つきでずんずんと沢登りをしていく子どもたち。幼いがゆえに子ども同士のトラブルもありますが、それでも山崎さんは割って入るわけでもなく、子どもたちが自分たちの力で解決していく様子をあたたかく見守っています。
 「もめごとだけじゃなくて、例えば農作業なども、本音を言ってしまえば親が仲裁をしたり手伝ったりしたほうが、すぐ仲直りもするし作業も楽なんですよ。でもね、大切なのはその子たちがどう考え、どう動くかということ。何もできない、まだ言葉もうまく話せない小さな子でも、そこにいるだけでいいんです。この自然が、あの子たちの想像力を働かせて、たくましく育ててくれるんです」

 何か問題が起きたとき、親はどうしても子のためと思い、円満で事を済ませたいもの。しかし、子どもの怒る、許すという感情はしっかり消化させることが必要であり、そういった人間としての「喜怒哀楽」すべての思いを受け止めてくれるものが、自然という揺るぎない世界であると山崎さんは考えます。
 「『癒し』と安易に言うことは決して間違いではないけれど、自然は本来厳しいものです。正でも負でも、人間の気持ちやエネルギーは自然の前では太刀打ちできるものではなく、あがきようのない答えしかそこには存在していません。いつでも、どんな子でも、自然は受け皿になってくれます。その子どもたちの胸のなかに何かが宿り、いつか大人になって迷いや困難があったときに、ここでの記憶が道標になってもらえるのではと思うんです。『私たち人間はみな同じひとつの地球の上で生きているんだ』っていう、ものすごくシンプルでベーシックな答えにかえってこられるのではないかと」

 十数年前、カナダでの暮らしを経て帰国した際、私たちが暮らす日本には、こんなに多くのものが溢れているのに、その分だけ犠牲になるものも多いと感じジレンマを抱いたという山崎さん。何もないところから、何かを見いだすことでつくられる未来。そしてその世界を切り開いていくのは、これからの子どもたちであるようにと、山崎さんの未来への希望がコンセプトになった「山のようちえん」。
 世の中にさまざまな生きかたがあるように、あなたはあなたでいい。「あなた」という名の資源を、最大限に生かしていける場所。それが、山崎さんにとって栗野の自然がつくる「山のようちえん」だったのです。


 「ここには正解もないし、こうあるべきというマニュアルもつくれない。私も開園当時は、思い悩むこともありました。でもこんなにも恵まれた環境があって、子どもたちがこうして笑顔でやってきてくれるのだから、とにかく気持ちを楽にしようと思ったんです。根拠はないけれど、すべてに対して『Everything OK!』という気持ちでいることが、大切なんだって」
 ありのままの自分を受け入れる怖さに打ち勝つものは、きっとほんの少しの勇気と行動力。そして今、山崎さんの目の前にあるものは、自然の中で知恵をふりしぼり、先へ先へと歩み続ける子どもたちの未来への大きな一歩。

 「山のようちえん」を何もないようちえんと思うのは、ありふれたものを知る大人だけ。何もないこの世界を素晴らしい何かに変えることができるのは、泥だらけになって笑い転げる、あの子どもたちなのかもしれません。(三上 美保子)

山のようちえん >https://www.facebook.com/yamanoyochien

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