「ジブンらしくツナガルくらし」はゆたり出版の「ゆたり文庫 地方に暮らす。シリーズ01 地方とわたしとつながる世界」に再編集し収録されています。書籍はネット通販、書店、販売協力店でお買い求めできます。詳しくは本とゆたりをご覧ください。
「普段は撮る側だから」と言ってはにかむ大森芳徳さん(36)は、私たち協力隊を含め、仲間内から「てっちゃん」の愛称で何かと頼りにされる、里美地区在住のデザイナーさんです。デザイン会社を個人で営み、3人の子どもたちの父親でもある大森さんは、私たち協力隊の事業にも沢山協力していただいています。人口3,500人程の里山で、里美地区で働く仕事人、父親。そして地域住民としての彼の生きざまを伺いました。
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一つ一つの縁を活かす
学校を卒業し、印刷業の会社に就職しました。その後も何度か転職をし、2004年、26歳の時に結婚、そして一人でデザイン会社を立ち上げ独立、今に至ります。
大森さんの人生の中で、彼に大きな影響を与えた人との出会いが何度かあったそうです。最初に就職した会社では、昔気質の職人さんから多くのことを学びました。どんなに些細な部分にも気を遣い、少しの汚れもミスもないものを創り上げ、それを繰り返すことで『信頼される、丁寧な仕事をする』ということを叩き込まれました。何千枚も刷った印刷物を廃棄することもあったそうです。普通なら一人前の仕事ができるようになるまで2週間以上かかる仕事を、こっそり家に持ち帰っては練習を繰り返し、2週間もかからずその技術を習得しました。また、人が何か間違いをしたときは、きちんと怒る。そして、自分が何か間違いをしたときには、きっちり謝る。仕事以前に、人としてどうあるべきか、という姿勢をその職人さんの背中から学び取ったのでしょう。細部にまで行き届いた今の彼の仕事を見ていると、多くの苦労と試行錯誤を繰り返しての賜物だと感じます。
そして独立の直前まで働いていた会社では、その後の人生に大きな影響を与えた人物に出会います。その方は社長という立場にありながら、決して人を否定せず、まるごと受け止めてくれるような懐の深い方だったそう。人生設計の立て方を教えてくれたり、独立への後押しをしてくださったそうです。その社長から『一人一人を尊重した活かし方』を学んだ、という大森さん。「これまで、本当に素晴らしい人に出逢って来た。」と静かに語ってくれました。
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寄り添う、生き方
私自身、地域の中や日々の活動等様々な場面で大森さんとお会いする機会がありますが、「今から帰って子どもを風呂に入れる」「今日は剣道に連れて行く日だ」と、彼の生活の中に子どもとの時間が自然と組み込まれている様子が良く分かります。奥さんの実家に義父母、奥さん、そして3人の子どもたちと一緒に暮らす大森さんは「家庭の中では、できる人ができることをやるだけ。料理もするし、裁縫もする。義父母の田んぼも手伝うよ。」と仕事内容上、自宅にいる時間の長い彼らしいやり方で、家庭の中での役割をこなします。そして協力して家計を支える奥さんにも「仕事に出てくれて、助けてもらっている」と、感謝の気持ちを忘れません。「出張の時に、子どもたちがくれた沢山の手紙が宝物。全部取ってあるよ。」と嬉しそうに笑う大森さんの暮らしの中で、その中心に『家族』の存在があることを深く感じました。
剣道は今から3年前、当時5歳の長女と一緒に始めました。「自分が一緒にやることで、同じ目線で話せるようになる。道場の子どもたち、みんな仲間だよ。」自分より早く始めた人は皆先輩。たとえそれが小学生でも、アドバイスをもらったらきっちり受け入れ、尊重します。「子どもたちがめげそうになった時、頑張れっていう言葉も、自分も同じことに取り組んできていれば、責任を持って伝えることができる。」子どもたちに真摯に向き合い、寄り添うその姿は、子どもと大人が、その枠組みを超えて「友人」「仲間」「子弟」になり、豊かな関係性を築くことができる素敵なスタイルだと感じました。
協力隊事業で大森さんがデザインした製作物
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「今、ここに住んでいるから」取り組む地域活動
大森さんは、『第一話“水の人”という生き方』で登場した岡崎さんが代表を務める『里美の水プロジェクト』にも、デザイナー兼カメラマンとして関わっています。日々忙しい中で、そのような地域活動に積極的に関わる理由やモチベーションは、どこから来るのでしょう。
大森さんにとって大切なことは「その活動を通して個人個人が豊かになること」だと言います。豊かさとは、金銭的な負担なく、関わっている人皆が「参加して良かった」と充実した気持ちになれることで、活動を通して得られた豊かさを個人個人が持ち帰って、それが周りに伝わり、自然と巻き込まれていくことだと考えています。地域活動や里美の水プロジェクト等、里美の水や森林を守る活動に参加する理由は「子どもたちにきれいな環境を残したいから」。まずは自分から、そのような活動に取り組んでいこうという姿には、頭の下がる思いがしました。また、地域の消防団にも属しています。「普段家で仕事をしていることが多いので、自分は有事の際に出やすい。自分が家を空けた時にもし災害や非常事態が起こったら地域に助けてもらうことがあるかもしれない。協力できるときに、お互いが協力し合う環境が大切なんです。」その目は常に家族、地域、そして未来を見つめていました。それでも「まだ自分も充分な行動が伴っていないかも」という大森さんは、謙虚な姿勢も忘れません。
大森さんの自宅周辺(2014/2/9大森さん撮影)
仕事、子育て、そして地域活動。自分が必要だと思うことに取り組んで、責任を全うする。結果だけでなく、そのプロセスを大いに楽しむ。様々な豊かな出会いの中でその一つ一つの縁を大切にし、多くのことを学び取り、自分の糧にして日々を丁寧に生きるその姿は、普段寄り添っている子どもたちにとっても身近な、そして理想的な目標となっていることでしょう。「色々な活動が、もっと生活の一部として自然と組み込まれてくるような生き方がしたい。」と語る大森さんの、自分軸を持った等身大の生き方に魅せられます。「自分はあくまで、『ただの、どこにでもいる』人だよ。」と自然体で笑う彼の暮らし方こそ、多くの人の共感を呼び、大切なことを教えてくれる指標となるのではないでしょうか。
(Relier里美支部・長島由佳)
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