「ジブンらしくツナガルくらし」はゆたり出版の「ゆたり文庫 地方に暮らす。シリーズ01 地方とわたしとつながる世界」に再編集し収録されています。書籍はネット通販、書店、販売協力店でお買い求めできます。詳しくは本とゆたりをご覧ください。
「直感的に、男女の双子だと思った。」そう、トレードマークのにこにこ笑顔で話してくれたのは小林美華さん(33歳)。柔らかな雰囲気を纏いながらも、はきはきとして凛とした女性です。2歳3か月になる双子ちゃんのママであり、常陸太田市里美地区にある横川温泉元湯山田屋旅館20代目女将です。人口約3400人の過疎のムラで、300年の歴史を持つ由緒ある旅館で若女将として、嫁として、母として、そして一人の女性として生活する、彼女の暮らしを聴きました。
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様々な縁の中で
秋田県南秋田郡出身の美華さん。里美に来る前は、医療関係の仕事に10年間勤務し、主任として活躍。平成20年3月に「一緒にいて、自分自身が向上できる」という夫の小林康昭さん(現在35歳)と入籍、5月に里美地区へ引っ越してきました。「夫は山田屋旅館の跡取りで、ゆくゆくは戻らなければならないことも知っていました。私も、女将として生きる覚悟はしていました。人と接することが好きな自分には、向いている仕事なのではないかと感じたから、楽しみでしたよ」。知らない土地への不安よりも、大好きな人と一緒になれることへの喜びの方が上回っていたそうです。
旅館のお客様の中には秋田出身の方も多く、不思議な縁を感じるそうです。常陸太田市内で美華さんの旧姓「猿田」という苗字の人と出会った時は驚いたそう。「猿田」という苗字は秋田の中でも美華さんの出身集落にしか聴かない名前だそうです。本市に本拠地を置いていた戦国大名佐竹氏が徳川の時代に秋田へ国替えを命じられたというつながりから、今も本市と秋田市は姉妹都市となっています。もしかしたら美華さんの家系も元々は常陸国にあるのかもしれませんね。
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若女将として
「お客様の中には、20年間も通い続けてくれる方もいます。中には、親、子、孫、と代々3世代で来てくださる方も。楽しい時間のお手伝いをさせてもらえることが嬉しい」
若女将として、今、毎日楽しく仕事ができていると言います。宿帳の裏には、美華さんが仕事をする上で一番大切にしているというお客様とのやり取りをメモしていて、旅館のブログ『~若女将の奮闘日記~』を通して、里美地区の魅力と共に定期的に発信しています。
(ブログURL→http://motoyu-yamadaya.doorblog.jp/)
美華さんたちの代になってから、同世代のお客様が増えたそうです。「お食事処やロビーなども私たちの代で改装しました。歴史を重んじながらも、残すべきものを受け継ぎ、そして時代に合わせて変えるべきところは変えていく。歴史ある旅館の20代目として、次の世代に受け継いでいきたいと思っています」
それらの言葉からも、若夫婦の歴史や仕事に対する、一本筋の通った清々しい想いが感じられました。
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嫁として、妻として
ある時、同居のお義母さんに掛けられた言葉を、美華さんは今でも忘れられないと言います。「美華さんという“花”を咲かせるために、私たち(お義父さん、お義母さん)が土となり水となるの。何かあったときは、いつでも美華さんの味方だからね」
「小林家という家は、お嫁さんをとっても大切にしてくれる家なの」。安心した表情で、美華さんはそう話してくれました。三世代同居、家族経営という環境の中で、プライベートも仕事場もずっと一緒では、実の親子でも時にはぎくしゃくすることもあるでしょう。家柄として人が集まりやすい小林家の「嫁」としての立ち居振る舞いに、戸惑った時期もあったそうです。そういう時期を乗り越えて、“どんな時も美華さんの味方”と断言してくれたお姑さんの言葉は、今も美華さんを支えています。
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母として
美華さん自身、おじいちゃんおばあちゃんのいる家で育ちました。三世代で住む、ということは、里美地区で子育てをしながら働くにはとてもいい環境だと感じているそうです。子育てという面からみると、そこが家族経営の良さであると言います。
今、里美地区の保育園には約60人の子どもたちがいます。子どもの数だけ親もいるはずですが、平日は地区外で働いている人も多いので、仕事場も里美地区にある美華さんはなかなか行き会わないそうです。そこで、気の合うお母さんたちに声をかけて地域内の施設を活用して定期的に集まり、情報交換をするきっかけ作りをしていきました。育児を通してママ友と出会う中での、同世代の人たちとの何気ない会話が楽しいと言います。ここにも、美華さんの社交的な明るい性格が活きています。積極的に家の外に出かけていくことで、若いお母さんたちが出会う場を作り、皆で里美地区での子育てに向き合っています。
旦那さんの康昭さんは、都会での10年間の料理人修行を終え、山田屋旅館の跡取りとして帰ってきました。彼の創り出す料理はとても繊細で、この土地に根付いた豊かさを感じられる品々です。
「自然豊かな里美にいると四季の移り変わりがすぐ傍にあり、その変化が手に取るように分かるから、そういった細かな変化を料理にも映り込ませることができます」。そう、康昭さんは話してくれました。二人の子どもたちにとっても、信念を持って堅実に働くお父さんの姿をすぐ傍で見られることが、将来“里美で働く”ということを選択肢の一つにできたり、“働く”ということについても心身で感じイメージすることができる、とても素敵な環境だと感じました。
山田屋旅館のすぐ近くにある下滝。数多くある里美地区の滝の中でも、多くの人が訪れる名所
「子どもたちの手が離れてゆとりができたら、ヨガをやりたいな。里美でできたら、最高!」と願いを込めて語ってくれた美華さん。過疎化の進む地域で、暮らしづらさのようなものはありますが、それでも旅館の若女将として、嫁として、母として、そして一人の女性として里美で生きる美華さん。「住めば都。里美で一緒に暮らしましょう」。そう話す美華さんには、暮らしを楽しく豊かにするために必要な前向きなエネルギーが宿っているように感じます。里美地区を故郷と思ってくれる同世代の仲間が増えたら嬉しいな、という想いは、美華さんも私も共通です。(Relier里美支部・長島由佳)
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