少し前にこの本が映画化されたことを知り、「なーんだ、つまんない」と思ってしまった、心の狭い私。
お気に入りの本が映画化されると、「やっぱりねー。この話すごくよかったもん♪」などと自分が書いたくらいの勢いで喜んでしまうのに。
春はなんとなくバタバタしていて、ゆっくり本と向き合う生活でなかったけれど。
暑くなってきて、だんだん読書したくなってきた!
私は網戸からのそよそよ吹く夜風の中や、夏の午後の和室でごろごろしながらの読書に至福の喜びを感じる。
そう、「読書の夏」なのだ。
読書の夏の幕開けにふさわしい一冊。
それが、この「食堂かたつむり」。
主人公、倫子が失恋をし、10年ぶりに故郷に戻るところから物語は始まる。
インド人の彼は、家財道具一切を持って去っていき・・・と思ったら、ガスメーターに入れておいたぬか床だけは忘れていったらしい。
ぬか床を抱え、夜行バスで田舎へ戻り、会いたくもない母との再会。そして、母のもとで食堂を開店させる。
倫子の食堂は、お客さんの要望をじっくり聞いて作り上げる、完全オーダーメイド。
そんなで採算がとれるのか?というつっこみも入れたくなるが、まあフィクションなので(笑)。
それに、そんな小さなことに心をとられている暇がないほどの、大きな悲しみが倫子に降りかかってくる。
話の中に、「エルメス」という豚が登場する。
ネタバレになってしまうのであまり書きたくないのですが、彼女(エルメス)の存在が話の中でとても重要な存在である。
人はなぜ食べずには生きられないのか。
どうして悲しくても明日があるのか。
幸せな時間はたくさんあればあるほど幸せなこと?
目に見える優しさや思いやりだけが、本物なの?
たくさんの疑問が沸いてきては悩み、ページをめくるスピードが速くなってくる。
誤解のないように、誠実に生きることが一番確実だと思っていたけれど、
もしかしたら誤解を受けやすい人の方が、案外、思いやりのある人なのかも知れない。
毒舌な人ほど、本当の優しさをもっているのではないかと思う。
倫子の母、ルリコが最後に残したサプライズに思わず涙が出た。
ざぶざぶと顔を洗いながら、「やっぱり夏は読書だよなー」と、さわやかな読後感を味わった。
読後、すべてのものがいとおしく思える一冊です。
「食堂かたつむり」
小川 糸・著 ポプラ文庫
Trackback(0) Comments(4) by つき|2010-07-03 22:10
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