栃木県の那珂川町にある「もうひとつの美術館」は、【みんながアーティスト・すべてはアート】をキャッチフレーズとし、ハンディキャップを持つ方たちの作品を中心に企画・展示している美術館です。2014年現在、同じような趣旨の美術館が数カ所在りますが、国内初で先駆けとなったのが、2001年に開館したこの「もうひとつの美術館」でした。
発起人でもある館長の梶原(かじはら)紀子さんがハンディキャップを持つ方達の表現、芸術性に興味を持ったのは、ハンディキャップを持つお子さんとの生活を通じてのことでした。芸術的な作品としての価値、評価を得られず、美術館に飾られることもなかった「もうひとつの美術」の存在。その世界を伝えていこう、知ってもらおうと考えるようになった梶原さん(当時は都内在住)に、那珂川町で廃校となっていた旧小口小学校の古い木造の校舎(明治36年築)との出会いが訪れます。「もうひとつの美術」、古い校舎、梶原さん ― それぞれが別々の経験や月日を重ねながら、ひとつになるために存在し、時を待っていたのでしょう、梶原さんの働きかけに呼応した有志の方達の協力を得ながら、開館は実現。古い木造校舎と作品が調和し、共に作り上げる空間、世界観に、必然の結果を感じずにはいられませんでした。
「ハンディキャップの方たちの芸術」=「生まれたままの芸術家」と捉え、「アール・ブリュット(Art Brut/仏語)」と表現されることも。これは、ジャン・デュビュッフェというフランス人画家が、美術・芸術について特別に学んだこともない人たちが創造する作品を“生まれたままの知識・技術”と評価した造語で、さらに、仏語から英語へ変換されたのが「アウトサイダー・アート」です。
「もうひとつの美術館」はアウトサイダー・アートが中心とはいえ、ハンディキャップがあるなら展示する、という方針ではありません。一定の水準を保ち、美術、芸術作品を生み出す作家として評価した上で、その作品を紹介しているのです。また、まだ知られずにいる優れたアウトサイダー・アーティストとの出会いにも力を注がれ、2008年からは「なかがわまちアートフォレスタ」という公募展を主催しています。選定された作品は「もうひとつの美術館」の外、町内各所にも展示されるので、鑑賞者は地図を頼りに自ずと那珂川町を一巡りすることに。移動しながら目に入ってくる里山の美しさや、山間に佇む古い木造校舎も作品のようでした。
「もうひとつの美術館」が教えてくれたもうひとつの美術の世界は、アール・ブリュットを極めるように、知識や技術にとらわれず、それぞれのこだわりに忠実で、無我夢中に創られただろう作品たちとの出会いでした。かけがえのないものを得て、心の中に宝物をたくさんにしたような悦び ― きっと、多くの方達の価値観を変えてきたのでしょうし、この美術館の及ぼす影響力は想像を超えたものとなっていくでしょう。(T.H)
住所/栃木県那須郡那珂川町小口1181-2
TEL・FAX/ 0287-92-8088
開館時間/10:00〜17:00(入館は16:30まで)
定休日/月曜日(休日閉館)
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